終末期の延命措置に関する意思を示した「尊厳死宣言公正証書」を作成する人が増えている。病気で死期が迫った患者の延命治療中止などについての法規定がない中、医療現場では本人の意思を尊重する流れにあり、「確実な意思表示」の一方法として注目されている。(大出行秀) 九月十一日。遺言作成のため、札幌市内の公証役場を訪れた同市内の夫(80)と妻(64)は、役場にあったパンフレットで「尊厳死宣言公正証書」を知り、遺言と一緒に尊厳死の公正証書を作ることにした。 夫は十五年前に脳卒中で倒れ、数日間、意識不明の状態が続いた。「あの時は助かったが、次に倒れて回復の見込みがない時は、死期を延ばすだけの延命措置はやめてほしい、と考えるようになった」からだ。 元看護師の妻は、多くの終末医療を見てきた経験から、「最期は人間らしく終わりたい、と思っていました」と胸の内を語った。 公正証書は、公証役場の公証人が、公証人法などに基づき作成する公文書。尊厳死の公正証書は、過剰な延命措置を拒否するなどの依頼人の意思を、公証人が記録する。費用は一万一千円で、原本は公証役場に保存。コピー(謄本)は一枚二百五十円で受け取れる。 尊厳死宣言公正証書の作成が増えてきたのは「最近四、五年のこと」(日本公証人連合会)という。道内でもこの三年間の作成件数は、札幌の三役場(札幌、大通、札幌中)合計で二十件、旭川十六件、帯広五件、函館四件。特に旭川の十六件のうち九件は今年四月以降で、急増している。 内容は、個人差があるものの、同連合会が示す文案では、《1》死期を延ばすためだけの延命措置は一切行わないでほしい《2》苦痛をやわらげる処置は最大限実施してほしい−の二点が要点(例文参照)。ただ、延命措置に関する法規定がないため、宣言通りの処置がなされるかどうかは、最終的に医師の判断による。 札幌大通公証役場の小野博道公証人は「公正証書は、本人の意思を示す証拠として客観性、信頼性が高い。本人の意思確認という意味で、大きな判断材料になると思う」と話す。 また、今年八月、不起訴になった道立羽幌病院(留萌管内羽幌町)の人工呼吸器取り外し事件など、延命措置の中止などに際しては、医師や家族が訴追される可能性も伴う。このため公正証書では、家族や医師が訴追の対象にならないよう求める配慮もしている。 同様の尊厳死の選択については、日本尊厳死協会の「尊厳死の宣言書」(リビング・ウイル)があり、現在、約十二万人が延命措置の拒否などを記した書類に署名、押印して登録している。亡くなった会員の家族を対象に、同会が行った昨年のアンケートでは、95・8%が「宣言書の意思が尊重された」と答えた。 札幌市南区の定山渓病院では二年前から、患者や家族の希望があれば、終末期に希望しない医療措置について「意思確認書」に記入してもらっている。中川翼院長は「終末期に当たり、医師は患者の希望をサポートするのが最も大切。本人の意思はできるだけ尊重したい」と話している。 厚生労働省が、九月十五日に公表した、初の終末期医療に関するガイドライン(指針)原案は、患者の意思尊重を基本に、治療について患者と合意した内容を文書化することなどが柱。患者が自分らしい死を選べるかどうかが、今後の論議にかかっている。 ■尊厳死宣言公正証書の文例■ (1)私の疾病が不治の状態に陥り、死期が迫っていると担当医を含む2人以上の医師に診断された場合は、死期を延ばすためだけの延命措置は一切行わないでください。 (2)苦痛を和らげる処置は最大限に実施してください。そのために麻薬などの副作用で死期が早まったとしてもかまいません。 (3)私に以上の症状が発生した時は、医師も家族も私の意思に従い、人間として尊厳を保った安らかな死を迎えられるようご配慮ください。 (4)私の要望に従ってされた行為の一切の責任は私自身にあります。警察、検察の関係者には、私の家族や医師が私の意思に沿った行動をとったことにより、これらの者を犯罪捜査や訴追の対象にすることがないよう特にお願いします。 (日本公証人連合会の「証書の作成と文例」より抜粋) 北海道新聞社
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